アジア太平洋議員フォーラム(チリ)
米国IT・米国郵便庁戦略視察(ワシントンDC)報告

【1】アジア太平洋議員フォーラム
1.チリまでの行程
2.サンチャゴ到着初日の中曽根元総理との懇話内容(大使主催夕食会)
3.本会議前日の2国間会議とチリ上院議員議長主催の夕食会
4.アジア太平洋議員フォーラム(APPF)本会議開始
 ①核廃絶に関する決議
 ②環境問題に関する決議
 ③
21世紀チリ宣言

【2】ニューヨークでの視察
1.ニューヨークのITネットワーク社会視察
2.ブッシュ大統領就任式
3.ニューヨーク郊外・ショッピングモール視察
【3】米国郵便庁(USPS)関係者への視察
1.郵便料金委員会訪問
2.米国郵便庁(USPS)訪問

【4】IT関連企業の視察
1.オクスレー下院金融委員長(共和党)との会合
2.グレーター・ワシントン・イニシアチブ(GWI-非営利団体)
3.IT関連企業幹部との昼食会
4.AOLとの会合
5.NTTドコモ米国子会社訪問
6.サン・マイクロシステムズ視察
7.デジタルデバイドに対する米国の対応
8.デロイト・トウシュ会計事務所訪問

 
【1】アジア太平洋議員フォーラム
1.チリまでの行程 
 成田を1月13日午後5時に出発し、ロスアンジェルスに着いたのが同じ日の午前10時(時差の関係)でした。乗り換え機のランチリ航空機に搭乗するまでの1時間半、空港の控え室で休憩しました。その時思い出したのが、日本を出る前になすべき国際Eメールがロスでできるか、同行のIT専門家および全日空職員の協力を得てさまざまな試みをしましたがうまくいかず、チリで行うことにしました。
この時に同行議員(麻生太郎・五島正規衆議院議員)等と、IT技術の日米比較を行いました。この中で、やはり、米国の携帯電話は通話手段だけであり、日本のiモード技術の発想は米国にはなく、日本の誇れる技術になるものと確信しました。また、今年の5月から、日米のインターネットの相互互換が可能となり、いよいよ、電話回線よりインターネット回線が主流になる時代が到来することが実感できました。
 
 ロスから給油地のペルー・リマ空港に到着したのが、8時間後の同日の夜11時半(現地時間)で、当初機内で1時間待機と考えていました。この飛行機に中曽根元総理が同乗しており、急遽、空港の控え室で、ペルーの木谷日本大使からペルー情報の説明を受けました。この時、中曽根氏はフジモリ前大統領を始めとする要点を網羅した質問を矢継ぎ早にされ、82歳の年齢を感じさせない、さすが、ロン・ヤスで鳴らした世界の顔になった総理と実感しました。私も、フジモリ氏の扱い方について気になっていたため、ペルー国内でのフジモリ氏に対する感情・意見等を聞いたところ、大使は、フジモリ氏の家族は、表向きは自分たちの名誉の為に帰るべきだと言っていますが、多くの政治家は口にしないまでも、現在は帰国しないほうが良いと考えていることが分かりました。
その後、機内に戻り、私は中曽根氏にフジモリ氏が読売新聞で自分の心情を語った、「自分が帰国するとかえって国が二分してしまい、いまは帰国すべきでない」との判断について政治家として正しい判断かとたずねたところ、中曽根氏は、まずは個人の心情と人権の問題であり、他国の者が論評すべき問題ではない、また、南米の政治家は、一般的に権力の座から降りると国外退出し、忘れっぽい南米の気質から、しばらくしてから帰国することがあるのでは、と述べていました。
リマ空港からサンチャゴ空港までは3時間半の搭乗であり、14日午前5時(現地時間)、成田からサンチャゴまで25時間を要し、まさに、地球の裏側、私の訪問国32カ国目のチリにたどり着きました。
 
2.サンチャゴ到着初日の中曽根元総理との懇話内容(大使主催夕食会)
 14日夜、大使館公邸にて、中曽根元総理を始めとする日本国会議員が全員到着し、夕食会が行われました。私は、中曽根氏の隣の席になり、いくつかの質問をさせていただきました。
教育改革基本法の動きについては、伝統・文化教育の必要性を主張しながらも、教育改革の国民運動、草の根運動を展開し、家庭・社会教育にまで広げないと実効性が上がらないとの考えでした。また、教育改革国民会議報告の内容は、哲学・思想の議論が無く深みがない内容となり、宗教の必要性・尊厳性等に関する情操教育の必要性を主張し、一方、基本法改正については、現在の森政権のやり方は拙速な面があると指摘していました。
また、21世紀の日本の国家目標として、平和・人権・環境国家として尊敬される日本になるべきでは? との私の問いに対して、中曽根氏は、これらの目標は100年後にも通じる話なので、大事なのは国家と言う道具を使い、これらの理念をいかに実現するかという方向性と方策を示すのが大事なのでは、と述べていました。
 最後に、中曽根氏ご自身は、仏教思想をベースとする中道主義の政治に心がけているようで、21世紀のキリスト教、イスラム教は必ず仏教に近づいてくるとの認識を持たれている事を披露していました。
 
3.本会議前日の2国間会議とチリ上院議員議長主催の夕食会
 サンチャゴ到着の翌日15日、サンチャゴから車で1時間半の太平洋岸にある、10年前に国会が移転されたバルパライソに移動しました。到着後直ちにインドネシアと日本の国会議員団(衆議院:議長、中曽根元総理、麻生太郎(自)、五島正規(民)、柿沢弘治(無)そして私、参議院:亀井郁夫(自)、本田良一(民)、計7人)による会談が行われ、通常30分程度の形式的な会談を想定していましたが、東ティモール問題、アジア通貨危機等、具体的な話が続き、1時半の会談となりました。私は、インドネシア議員が質問した、日本においてアジアの人材育成を促進してもらいたいとの要望に対して、中曽根氏の答弁を補足する形で、大要次の説明を行いました。
私は、最近、日本政府が提案した今後5年間にわたる150億ドルのアジアIT研修制度を始めとするデジタル・ディバイド解消策等を説明し、さらに、アジア通貨危機に対して日米が適切に対処できなかった反省を踏まえ、新宮沢構想のアジア通貨基金に米国が反対した経緯から、インドネシアも日本政府の考え方を支援してもらいたい旨の要請をしました。
国会議員同士の対話は、行政間による会議とは異なり、政府の立場とは離れて自由に話せる雰囲気があるため、国会議員間による国際会議は時には大変有意義であることを確認できた会談でした。
 この日の夜は、海岸近くの博物館の庭にテントを張り、ここに加盟国26か国の国会議員が一同に会しました。他の国際会議で頻繁に合う米国、韓国の国会議員と会うと、いよいよ活発な議論ができると、雰囲気が盛り上がってきました。
 
4.アジア太平洋議員フォーラム(APPF)本会議開始
APPFとは、行政の代表によるAPECとは異なり、91年、中曽根元総理と米国ロス上院議員等が中心となり、アジア・太平洋の国会議員により、幅広い問題を自由に議論するために設けられた会議体であり、現在は26カ国、100人を超える国会議員が、チリ国会があるバルパライソの本会議場で開催しました。
 
 アジア太平洋フォーラム(APPF)本会議で発言。

 16日から、チリ国会本会議場で総会が開始し、中曽根議長は最初に、21世紀は西洋からアジア・太平洋の時代となり、今回の総会でぜひ「21世紀宣言」を行いたい、また、政治家は東洋的忍耐が必要とスピーチされました。チリ大統領は、21世紀は太平洋から日が昇ると述べられた後、直ちに議題に入りました。
 議題はアジア・太平洋地域のASEAN地域フォーラム、北朝鮮のARF加盟問題、核・ミサイル拡散問題等の政治・安全保障問題と、WTO、環境、麻薬、テロ等の地域協力問題が3日間に渡り議論されました。
それらの中で、私が発言した次の項目についてのみ報告します。
 
 ①核廃絶に関する決議
 核廃絶に関しては、日本、カナダ、フィリピン3カ国が決議案を提出し、日本の決議文の主旨説明を柿沢議員が行い、私は補足説明を行いました。日本の決議案はCTBT上院早期批准等、米国が行うべき要求項目が多く含まれていましたが、米国議員団の団長は日米国会議員会議で毎年議論する親しい下院議員であったため、一国に対して集中的に要求するのは適切でないと思いながらも、親しさに甘え、「本年からブッシュ新政権が誕生するので、ブッシュ新大統領が核廃絶に対して最大の努力をするよう、米国議員団として、APPF総会の議論の内容と雰囲気をしっかり大統領に伝えてほしい」旨を要求しました。また、アジア・太平洋での核拡散は絶対に許さない旨の決意を決議に示すべきであるとも主張し、その内容が決議文に盛り込まれました。
 
 ②環境問題に関する決議
昨年11月のCOP6の失敗から、本来重要な問題にもかかわらず、環境問題について提案があったのは、フィリピンが固形廃棄物の管理制度を述べた程度でした。このため、私は、まず、地球温暖化が進んだため日本も亜熱帯化し、集中豪雨による洪水が頻繁におこり、また、サンチャゴに着いたとき感じた強烈な紫外線は、オゾンホール破壊が原因であり、重要な環境問題について、この総会でより包括的な提案すべきであると考え、議長に対して発言を求めました。
そこで、本年5、6月に行われるCOP6再開会議の成功のため、京都議定書の2002年までの発効に向けた国際的熱意が失われないよう、APPF加盟各国が努力していくこと、また、循環型社会形成に努める法制度の整備を推進することについて、フィリピン決議案に盛り込むことを要求し、日本・フィリピン間による修正文が本会議で採択されました。
裏話ですが、チリ議会事務局の事務能力は大変おそまつであり、修正文が本会議最終日になっても作られておらず、結局私が議場内及び事務局を駆け巡り、修正文の作成と議長への根回しを行い、閉会10分まえにその修正文が本会議で採択されました。
 
 ③21世紀チリ宣言
 中曽根議長が21世紀最初の総会となる今回の総会で、ぜひ実現したいとして力を入れていた21世紀宣言を、議長国日本と開催国チリが協力しながら宣言文を作る予定でした。しかし、チリの事務局に文章作成力がなく、また、中国が軍縮のことを書くと宣言文に賛成できないと強行に反対してきたため、まずは日本と中国間で文章を合意し、他国に図ったところ、宣言案を提示する前は、何カ国が宣言文そのものの必要性を反対していましたが、中国が宣言文発表に賛成したため、会場の雰囲気が一挙に変わり、全員一致で「21世紀チリ宣言」が採択され、3日間の総会が終了しました。
 

メンバーと記念撮影
左からAPPF副議長、私、柿沢元外相、APPF共同議長(チリ国会議長)、フォートン米国議員団長
 
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【2】ニューヨークでの視察
1.ニューヨークのITネットワーク社会視察
 チリでのAPPF総会からワシントンDCでのIT視察団と合流するまで、時間調整をするため19日から21日までの間、5年ぶりにニューヨークに滞在しましたが、ITネット-ワーク社会のすごさをまざまざと見せつけられた2日間となりました。
 ニューヨーク到着日、最初に驚いたのが、空港からホテルへ向かう途中の有料道路で、日本の高速道路で一部に導入が始まったETC(道路料金自動支払システム)が5年前から使用されていたことでした。
 また、マンハッタン中心部の比較的小さなホテルに泊まりましたが、ホテルのテレビをつけると、最初にテレビを見るか、インターネットにアクセスするかを選択する画面が出ました。このようなテレビ設定環境になるのも、96年の電気通信法改正により、電話・CATV・放送の垣根が撤廃され、情報通信事業者の新規参入が相次ぎ、その結果、夜間のインターネットプロバイダー最大手のAOL利用者数はCNN視聴者数を上回っているようで、テレビ放送より、インターネット情報が多く利用される時代が日本にも、すぐそこに来ていることが予想されました。
その後、監査法人トーマツのニューヨーク事務所を訪ねました。狭いニューヨークのオフィススペースを最大限に活用しようとして生み出されたのが、「スマートスペース」と呼ばれるものでした。これは、事務所職員が個人の机として継続的に使用できる机が無く、机を使用する時は必ずホテルの部屋を予約するように、インターネットで一定期間のオフィスを確保し、そこで必要に応じて必要なスタイルの事務所(個室、会議室等)を確保するというものでした。これにより、オフィスの稼働率が高まり、職員が増加しても新たにオフィス増設の必要が無くなるため、この制度を全米の事務所に活用しようとの考えです。     
スマートスペースのシステムを採用している階とは別の従来のオフィスの階を見ましたが、従来型は明らかに無駄な書類と、人が座っていない生産性の低い事務所であることが歴然としました。
 
2.ブッシュ大統領就任式
 1月21日正午(日本時間午前2時)、米国議会正面で行われたブッシュ大統領の就任式の一部始終を、ホテルのテレビ(C-SPAN24時間政治番組)で見ました。アメリカンメロディーから始まり、ブッシュ新大統領の15分間にわたる就任演説が行われていました。演説の内容は、合衆国という国の存在と自由・平等を最大の価値とすることが強調され、歴史、市民の絆、家庭の大切さを訴え、それを証明するように、前ブッシュ大統領夫妻、クリントン夫妻、ゴア夫妻等が新大統領の隣に同席していました。また、新大統領の、可能な限り原稿を読まず、責任ある市民が大事であると直接国民に語りかける姿勢が、あの激戦を勝ち抜いた源泉であると思いました。演説の中で減税に触れたとき、聴衆に歓声が起き、また教育改革にも触れ、政策関係はごく簡単に触れただけでした。
 

NHKワシントン支局のスタジオで野田聖子元郵政相と
 
また、最高裁長官へ宣誓して大統領に就任する米国の制度と、象徴天皇制のもと、皇居で総理大臣の認証式を行う日本との制度に大きな両国の歴史と制度の相違を感じました。
 本来ならはここに同席してもよいレーガン元大統領は、中曽根元総理の話では、中曽根氏のことも判らないほどアルツハイマーがひどくなっており、冷戦構造を壊した偉大な大統領が就任式に姿を現せない歴史の皮肉さを感じました。
 当日のテレビ報道では、聴衆に姿を表す前後の控え室の、ブッシュ、クリントンらの家族との姿まで写され、米国民主主義は徹底した情報公開を求め、それを可能とするために現在のインターネット社会が国民に利用されてきたものと理解しました。
 
3.ニューヨーク郊外・ショッピングモール視察
 20日は、ニューヨークダウンタウンから北へ車で一時間移動したところにある、現在全米一の売上を誇るショッピングモール「ウッドベリーコモン・アウトレットモール」を半日かけて見ました。このモールの特徴は、広大な敷地内に、200以上の小さなショップが分譲住宅のように離れて営業しており、人気の原因の一つに、グッチ、シャネル等いくつかのブランド高級店がアウトレット価格で売っていることのようで、この日は、日本からの団体客数十名がショッピングを楽しんでいました。

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【3】米国郵便庁(USPS)関係者への視察
 昨年12月1日に閣議決定された行政改革大綱の中に、郵便事業を15年度中に郵政公社へ移行することが決定されており、そのため来年の通常国会に法案が提出されることになっています。このため、与党3党の若手議員4名(衆議院から、自民の野田聖子[団長]と小渕優子議員、そして私、参議院から保守党の鶴保庸介議員)がワシントンDCに集合しました。

1.郵便料金委員会訪問
 1月22日朝9時半から2時間にわたり、米国の郵便料金を決定する郵便料金委員会を訪問しました。この委員会は、大統領から任命され、上院議会から承認された5名の委員で構成され、任期6年、ちょうど1年前に再任され、7年間委員長を務めているグリーマン氏等から懇切丁寧な説明を受けました。
 元々、郵便事業に対する大統領府や議会の関心は薄いようで、毎年10ヶ月をかけてすべてオープン形式の審議手続きを行い、70団体120人からの参考人説明、2万ページを超える議事録作業を通じて、毎年の郵便料金が決められています。昨年11月に、第一種郵便郵便料金が33セントから34セントに値上げされましたが、郵便量は横ばいで、コスト増になっているため、わずかながら赤字体質になっており、現在、その原因を調査中とのことです。
 また、郵便局はピーク時で10万ヶ所あったのが、現在は2万7千ヶ所に減少しています。これだけの減少でユニバーサルサービスに支障がないかと尋ねた所、合理化やIT化等により支障はないとのことでした。しかし、日本大使館関係者の話では、USPSは配達のミスが多く、重要書類は、UPS、FEDEX、DHL等の民間会社の小包サービスを利用しているようです。郵便局員一人当たりの人件費は日本が米国より高くなっており、それゆえ米国民が郵便局と民間業者を使い分けているものと理解しました。
 一人当たりの年間郵便使用量は、米国が700通、日本が200通と、米国の請求事務、小切手支払い等がほとんど郵便で行われる米国の生活慣習により、郵便活用度が大きく異なっていることが判りました。
 大口割引料金については、ワークシェアリングの考え方に立って、多様な割引方法を導入し、25年前の導入時のダイレクトメール比率が全体の14%だったのが、現在では21%に増加していました。
 昨年、国際郵便に関して、USPSと日本の郵便局が協力関係を強化し、サービスの向上を確約しましたが、それは国際宅急便の民間業者に対抗するためであり、国を越えた官同士の協力体制は、官から民への流れの中で、必ずしも素直に喜べない動きであると思いました。
 また、日本の郵貯・簡保事業の扱いについてのアドバイスを求めたところ、一人の委員が、日本に金融サービス改革が進めば、いずれは整理・統合されていくのではと語っていました。
 
2.米国郵便庁(USPS)訪問
 同日午後は、30年前に公社化したUSPSの大統領任命ヘンダーソン総裁を訪ねました。総裁は私たち日本の国会議員に対して、積極的に日本の郵便事業の公社化に際して、公社統治のあり方、経営形態の重要性を強調していました。特に、経営会メンバー(USPS)には民間経営者が不可欠であり、その他に、弁護士、コンサルタントの活用も重要であると述べていました。
 IT化による影響をどう評価するかとの問いに対して、IT技術を活用し、労働生産性を向上させ、USPSのウェブサイトから公共料金支払いサービスを可能とする等の事業サービスの高度化・多様化を目指しており、影響は少ないとのことでした。
 ヘンダーソン氏も関与して、米国郵便事業の近代化を目指して96年に作成されたHR法案は、郵便事業における非競争分野と競争分野の会計分離、非競争分野でのプライスキャップ導入、競争分野でのUSPSによる自由な料金設定、また競争分野での投資制限等を盛り込んでいますが、昨年末の総選挙で廃案となりました。今後の同法案の見通しについては、議会でこの法案をだれも取り上げないため、議会外の特別委員会で改革を進める以外に無いのではと語っていました。
 USPSは最近、サービス範囲の拡大やコスト削減等を行うため、FEDEX等の民間業者との業務提携を行っています。一方、ドイツでは、97年に郵便事業の株式公開型の民営化を行っており、今後の成否が問われます。いずれにしても、日本においては、郵便事業のサービスの多様化とコスト削減を進めるため、競争的事業と非競争的事業の立て分けをしながら、郵便公社の制度設計を行うことが最重要課題であると認識しました。

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【4】IT関連企業の視察
1.オクスレー下院金融委員長(共和党)との会合
ワシントンDC到着翌日の23日は、IT関連企業への視察を中心に行いました。
始めに、昨年まで通信委員長を務めていたオクスレー議員を訪問しました。オクスレー氏は、クリントン政権はIT産業を優遇しており、ブッシュ政権になっても変化は無く、また、日本の経済拡大は米国にとっても好ましいと述べていました。また、ワイヤレス通信が次世代の重要課題であり、世界規模で進むデジタルデバイドも、教育を通して対応すべきであり、ブッシュ政権は21世紀型の新しい手法により、教育改革を行う旨を強調していました。
 
2.グレーター・ワシントン・イニシアチブ(GWI-非営利団体)
 その後、ワシントン周辺(21市郡)のIT戦略拠点で、その30%が官庁、70%が企業出資により支えられているGWIを訪問し、最近のワシントン周辺におけるIT動向の説明を受けました。GWIが99年に発表した米ハイテク企業数が、ワシントン周辺が12,364社となり、シリコンバレーは11,937社を超えたとの調査報告を行った団体であり、80年は人口の23%が政府系職員であったのが、昨年は13%まで減少し、その結果、連邦政府から16,000人が失業したにもかかわらず、30万人の雇用増があり、4割がIT企業に勤めているとのことです。
昨年7月の訪問時と比べ、今回関心を持ったのが、バイオ関連企業数が現在では300~400社に増え、10年後にはIT企業数を抜くのではないかと説明があったことでした。
 この会合に、CapNetと呼ばれる政府ロビイストが参加し、現在のIT産業に関する政治課題は、一つには個人情報保護であり、米国もEU並みに規制するかどうか、二つには、税制については、基本的にはブッシュ政権もIT取引への課税凍結を延期すること、三つは、貿易通商の中でITルールをどう整備するか、ということが上がっていることを説明されました。
 
3.IT関連企業幹部との昼食会
 GWI責任者がアレンジした昼食会には、SAIC、NEXTEL、ナスダック・インターナショナル3社が参加してくれました。
 SAICは、社員4万2千人のネットワーク・ソリューションの会社で、上級副社長は、25年間のIT産業の成長要因として、連邦政府が積極的にIT企業を活用し、科学技術系を中心とする人材教育が行われ、豊富な資本と政府調達に支えられて現在のIT企業の成長があると述べていました。また、中小のIT企業にも政府調達の機会が与えられ、大変助かったようです。
 NEXTELは、ワイヤレス電話にトランシーバー機能をつけて8百万の顧客を持ち、2万5千人の社員を率いる38歳社長が参加され、日本のドコモの存在を強く意識していました。
 ナスダック・インターナショナルの会長は、米国での新規会社の90%がナスダックに公開し、日本企業のナスダックへの参加を求めていました。
 彼等が一様に強調していたのが、従来、IT企業が政治には無関心であったのが、マイクロソフト社も独占禁止法が適用されてからは政治と関わりを持つようになり、ワシントンDCのIT企業も10年前から政治に関係を強く持ちつづけているとのことでした。
 
4.AOLとの会合
 AOLは、2千7百万人の契約数を有する世界最大のプロバイダー会社であり、執行副社長が出席し、一週間前に締結したばかりのタイム・ワーナー社との合併を終えたあとの会合となりました。副社長は、現在のAOL利用者の不満は、スパムと呼ばれる勝手に進入するウエッブサイトであり、そのためのプライバシー侵害、そして、クレジットカードの誤使用であると述べていました。
 私は、日本はドコモが中心となり、iモードによるワイヤレス電話通信と、大容量情報送信を可能とする光ファイバーインフラに力を入れ、米国は銅線が主体ながらも、ADL技術で対応している現状の中で、映画のインターネット配信を考えているAOLとして、日本・米国どちらのインフラ戦略を支持するかとの問いに対して、副社長は、コンテンツ商品も含め、今後消費者が選ぶ問題であり、わからないと答えていました。
 また、米国国防省は、3Gと呼ばれる3世代の大容量ワイヤレス技術を民間に開放していないため、米国のインターネットは有線回線が主流にならざるを得ないと説明していました。
 また、IT時代に応じた人材不足を心配しており、小学校教育改革と合わせて、移民法を改正してでも、人材確保をすべきであるとの考え方を示していました。
 
5.NTTドコモ米国子会社訪問
 翌日の25日は、日本帰国中継地であるサンフランシスコに寄り、シリコンバレーのIT状況を視察しました。
米国市場は、日本のiモードを通して、携帯電話からインターネットにつながる技術を使用しておらず、ワイヤレス(日本で言う携帯電話)電話通話のみの機能にとどまっています。このため、NTTドコモが、3G(W-CDMA、画像を送ることができる)の技術を米国で広げるために、ATTワイヤレス社に対して16%の資本提携(約1兆円)を行いました。NTTドコモの米国子会社をその直後に訪ねました。
 今回のドコモチャレンジの成否により、日本発の携帯電話戦略(携帯電話からインターネットへアクセス)が、世界のデファクト・スタンダードになるかどうかという重要な意味合いを持つため、日本人として、その成功を心から祈る思いになりました。
 またサンノゼのIT企業は、ワシントンDCとは異なり、政治力にほとんど無関心であり、同じ国でも全くビジネス環境が異なるのは、広大な大陸アメリカ大陸の故かと思いました。
 
6.サン・マイクロシステムズ視察
 その後、サンノゼにあるサン・マイクロシステムズ社研究所を訪ねました。日本ビジネス開発担当のスン部長は、サン社が1年前に開発した、サーバーにハードディスク機能を持たせた製品が好調であり、かつ、サン社開発の無料ソフト(ランゲージ系)「JAVA」を活用させることにより幅広いソフトが活用できるようになるため、日本の電子政府化を含め、サン社のサーバー重視戦略が効果的であるとの指摘を受けました。このようなコンピュータの使用方法は、ウインドウズソフトとも競合せず、かつ、PCの心臓部であるハードディスクをサーバーに取り込むことができるため、今後は、有料のマイクロソフト社のウインドウズソフトと無料ソフト「JAVA」を提供するサン・マイクロシステムズとの競争が生まれることになります。

サン・マイクロシステムズ本社前で
 
7.デジタルデバイドに対する米国の対応
 今回のIT視察の中で、米国人に対して、デジタルデバイドに対する考え方と対応を何度か尋ねましたが、その返答は抽象的で、なかなか議論が進みませんでした。総合的に判断すると、米国ではあまりデジタルデバイドは議論になっておらず、低所得者層でのIT化については、多くのNGO等の非営利団体が幅広く支援しているようで、日本の社会環境とは大きな違いがあることが認識できました。
 
8.デロイト・トウシュ会計事務所訪問
 私が10年前に半年間駐在していた、デロイト・トウシュ会計事務所のサンフランシスコ事務所の元上司である日本人会計士に、10年ぶりに再会しました。彼は、特に、日系企業の経営および人事コンサルティングの専門家であり、日本企業の経営者がコーポレートガバナンスの重要性を理解せず、いまだに、社長・取締役への監視機能を強化するコーポレートガバナンスを避けているため、日本企業のマネジメント能力が高まらないことを強く憂いており、国会議員が立法化によって日本企業に経営の緊張感を与えないと、本当に日本は三流国になってしまうと心配していました。
以上
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