オーストラリア視察報告(2001年9月11日作成)

 8月中旬に、GST新税導入と地方交付税廃止(一部)にともなうオーストラリアの構造改革の実態を視察するため、シドニーおよびキャンベラを訪問しました。その結果、オーストラリア国内の産業界、連邦政府、地方自治体を巻き込んだ構造改革は、日本の改革の内容をはるかに超え、経済成長も4~5%を維持していることが確認されました。
 日本も早急に改革を仕上げなければ、経済をプラス成長にすることは難しいことが確信できました。

【1】連邦財務省
1.GST新税導入に伴う地方交付税制度の大改革の概要
2.1995年国家競争政策合意書の成果
3.1999年連邦・州政府間財政改革合意書
4.地方政府財政悪化の改善策(連邦政府と州間の紳士協定)

【2】連邦予算省
【3】NSW州地方自治大臣補佐官(政治任命)
1.NSW州政府公債削減法
2.市町村合併
【4】NSW州財務大臣補佐官(政治任命)
1.連邦補助金制度
2.国家競争政策合意書
【5】1995年国家競争政策合意書
1.行為規範合意書(Conduct Code Agreement
2.競争原理合意書(Competition Principles Agreement)
3.国家競争政策および関連改革推進合意書

【6】1999年連邦・州政府間財政改革合意書

【7】1998年財務管理・説明責任法
【8】日本政府の行革に対する参考事例
1.地方財源確保と1999年連邦・州政府間財政改革合意書
2.国家競争政策合意書の導入
3.早急の公会計整備

 
【1】連邦財務省
NSW州(シドニー所在州)視察の翌日の8月17日は首都キャンベラへ移動し、連邦財務省の連邦・州連絡部長を訪ね、連邦政府から見たGST(Goods and Services Tax)の導入に関連する構造・行政改革および地方自治制度の課題等について聴取しました。
1.GST新税導入に伴う地方交付税制度の大改革の概要 
 オーストラリア連邦政府は、2000年7月から付加価値税である財貨サービス税(GST-10%)を導入し、この税収全額を州政府に直接交付されることになりました。これは、1999年6月に締結された8つの州・特別区と連邦政府が締結した「連邦・州政府間財政改革合意書(※下記6参照……調査中)」に基づき実施され、卸売売上税の廃止と石油税の減税等と合わせて、2兆円弱の新税制(GST-総税収の約19%-日本の消費税は総税収の約20%)を導入したものです。
 GST導入の最も大きな理由は、経済成長に応じて州税収の増額が期待できることであり、全州の合意を得られたのも、このシステムが州にとって魅力あるものと同時に、導入後数年間は、GST税収不足による州財政悪化に対して、連邦政府が一定の支援を約束していることが挙げられます。
 GST導入に伴い、2001/02年度(決算期6月)予算以前(GST導入前)に交付されていた連邦政府から州政府に対する一般交付金(1999/2000年度は連邦政府予算の11%)は廃止され、2001年以降のGST導入後は、GST収入全額がそのまま各州に交付されるため、連邦予算には計上されない制度となりました。
2.1995年国家競争政策合意書の成果
 1990年代の経済低迷期に導入されたこの政策は、連邦政府による生産性委員会(Productivity Commission)主導の行革を推進し、現在の年率数%成長を可能とする土台を築きました(※下記5参照)。
 具体的には、民間も提供できるサービス(例:ゴミ回収)も、行政の清掃局と民間業者が同じ入札制度に参加しなければならず、行政も落札できない場合があるという、行政と民間が対等の競争を行っている競争政策を国あげて行っていることが、先進国でも数少ないプラス成長を維持できる理由があると理解しました。
 連邦政府から年額約400億円の予算が、この政策遂行度の度合いに応じて各州に交付されており、各州はこの交付金を少しでも多く得ようと、真剣に競争政策の導入を競い合っています。


3.1999年連邦・州政府間財政改革合意書
次の目的達成のために、1999年6月に連邦首相および各州・特別区首相の間で締結したものです。
 ○新連邦制導入の成就(経済活動の障害となっている多数の非効率的な税制の廃止を含む)
 ○州政府・特別区に対して将来的に成長が期待される課税ベースの確保
 ○全州・特別区政府の財政状況の改善
 
 この合意書に基づき導入したGST歳入額の各州政府等への配分金額の決定は、連邦交付金委員会が行っており、1999年の政府間合意書方式の導入時から、従来行われていた各自治体への補正係数制度を廃止し、現在の簡素な補正係数制度に変えました。
 また、GST導入前に交わされたこの合意書に基づき、オーストラリアは連邦政府、州、市町村一体となって、財政改革を推進する基礎ができたことになります。


4.地方政府財政悪化の改善策(連邦政府と州間の紳士協定)
オーストラリアの地方自治体が公債を発行する場合は、必ず市場から資金を調達しなければならず、その結果、地方自体体財政の健全性などをS&Pやムーディースなどの評価会社から査定を受けるため、地方自治体は日本のように国および地方が借金漬けになりにくい制度となっています。
また、州は州内にある市町村の財政健全性の責任を持ち、連邦政府が財政悪化の自治体へ直接介入は行わず、代わりに、州が自主的に市町村の財政改善を指導しています。(NSW州の例……※下記3参照)
 
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【2】連邦予算省 
 連邦財務省訪問の後、予算行政省の政府会計責任者を訪ね、オーストラリア政府の公会計制度と財務情報のディスクロージャーの状況について調査しました。
 オーストラリアは行革先進国のニュージーランドと行革を競っているだけに、公会計分野でも、本家の英国制度をはるかに超え、米国を上回る公会計基準をそろえ、約200の連邦政府と公営企業を連結しており、この1年間の財政状態の変化を容易に読み取ることができました。
 更に、収支報告書は、経済面を重視した報告書と機能面を重視した報告書の2種類を作成しており、読者にわかり易い内容でした。
ちなみに、NSW州政府から入手した州政府会計の財務諸表も、連結決算を導入しており、日本は国の貸借対照表が昨年作成されたばかりで、地方自治体の公会計制度もかなり遅れていることから、日本の構造改革を進める上で、会計専門家を活用し、法律制定も踏まえ、早急に公会計制度を充実させる政策が必要と考えています。 
 

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【3】NSW州地方自治大臣補佐官(政治任命)
シドニーがあるNSW州の自治大臣補佐官を訪ね、NSW州から見たオーストラリア連邦政府と州内市町村の制度改革の動向を聴取しました。
NSW州の歳入全体の26%を占めるGST交付金と18%を占める従来の一般交付金(連邦交付金合計は45%)を中心に、地方自治体の財政改革と市町村合併については以下の内容でした。
1.NSW州政府公債削減法
 1995年制定のNSW州政府純債務削減法は、2020年までの間に、短期目標として、法制定3年以内の持続可能な剰余金を生み出す予算を編成し、中期目標として、2005年6月までに景気循環に左右されない持続可能な純債務(公債-現金転換可能資産)状態を確立し、長期的には2020年までに、純債務をゼロにする内容の州法です。
 この法律は、6つの財政原則を規定し、特に、公会計および決算制度を重視した月次決算、半期報告書、連結決算等の作成義務を州政府に課し、日本の都道府県にはない、州政府の連結決算書の作成を可能にしていることが理解できました。

2.市町村合併
 広大な面積をもつオーストラリアは、8つの州・特別区と約600の市町村(Council)を有しており、市町村合併の議論は活発に行われています。しかし、過疎地域の自治形態を州直轄にするという議論は少なく、それよりも近隣の市町村との合併に力を入れています。
 NSW州は、1999年に、1993年地方自治体法の改正を行い、州内市町村の統合・合併と市町村境界線法を成立させ、市町村合併を強く推進する法律を制定させました。
 特にビクトリア州は、1993年制定の地方自治体勧告に基づき、州政府主導で既存の自治体を廃止し、新たな自治体を導入した結果、同州の自治体数は220から78に減少し、従来の議会に替えて、州政府が任命するコミッショナー制度を導入(各自治体3名)しましたが、この改革を強く推進した州首相は、コンセンサスを軽視し、最近の選挙で落選したとのことです。


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【4】NSW州財務大臣補佐官(政治任命)
NSW州自治大臣訪問後、NSW州財務大臣補佐官を訪ね、NSW州と州内市町村の予算の関係についての制度改革の動向を調査しました。
この訪問で話題となったのは、次の二つの点です。
1.連邦補助金制度
 オーストラリアはタイド・グラントとよばれる個別補助金が連邦政府から州に交付されますが、州から市町村への交付はありません。一括交付金または統合補助金は通常の国税から地方への一般歳入財源として認識されています。
2.国家競争政策合意書
 各州の競争政策導入状況を監視・評価する連邦政府評議委員には多くの民間経営者が任命され、この評議会が決定する競争配当金額の決定には強い関心と努力を払っています。ちなみにNSW州の2001年競争配当金予算額は130億円と少額ですが、少しでも歳入が多くなるよう、各州政府は競争政策導入に熱心です。
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【5】1995年国家競争政策合意書
連邦政府は1980年代から構造(ミクロ経済)改革の議論を開始し、1995年にはオーストラリア政府間評議会(COAG)から、すべてのオーストラリアにある政府に対して、国家競争政策(NCP)と呼ばれる包括的な構造改革が提案されました。
国家競争政策は3つの合意書で構成されています。
1.行為規範合意書(Conduct Code Agreement)
 1974年商取引実務法をすべての政府に適用させる合意

2.競争原理合意書(Competition Principles Agreement)

すべての政府の事業に対して6つの競争原理を適用させる合意書-NSW州は、1996年に州内の全市町村への競争原理導入を決定しています。

3.国家競争政策および関連改革推進合意書
電気、ガス、水道、道路事業に対する競争政策奨励支出金制度の法制化-1994年から9年間にわたり、競争政策奨励支出金(総額3兆円弱)を競争政策導入度合いに応じて、各州(人口配分基準)に交付する合意書
 
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【6】1999年連邦・州政府間財政改革合意書
当合意書の合意事項は、次の通りです。
1.GST歳入額全額を州・特別区へ交付(使途制限なし)するにあたっての法制の整備
2.財政支援補助金の廃止(2000年7月から)
3.州・特別区政府は、金融機関負担金等の課税を停止し、将来にわたって類似の課税を行わないこと
4.将来、GSTの税率等を変更する際には、州・特別区政府の合意を必要とする

5.本合意の実施状況を監視するため、連邦および州・特別区政府の財務大臣から構成される閣僚委員会を設置する

 
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【7】1998年財務管理・説明責任法
各省の次官、政府公社、法人等の経営責任者に対する財務管理の権限委譲と会計検査院等への報告の義務化によるアカウンタビリティーの向上を図るため、1998年に制定された法律であり、以下の9章で構成されています。
 
第一章 総則
第二章 定義および違反に関する一般協定
第三章 公金の徴収および管理等
第四章 会計・充当および支払い
第五章 借入れおよび投資
第六章 公財産の管理
第七章 次官の特別責任
第八章 報告および監査
第九章 雑則
 
同法は、各省庁の次官に対して、その責任下にある資源の効率的・効果的かつ倫理的な利用の促進を義務付けています。また、各省庁の次官から会計検査院に対して、年次財務報告書を提出することが義務付けられている一方、予算大臣に対しては、月次財務報告書の公表および年次財務報告書の会計検査院への提出が義務付けられています。
 
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【8】1995年国家競争政策合意書
1.地方財源確保と1999年連邦・州政府間財政改革合意書(IGA
 オーストラリア連邦政府は、GST導入を契機に、地方交付税の算定根拠を簡素化し、かつ、地方自治体の自助努力を重視する政策に力を入れてきました。地方交付税の金額決定は、連邦交付金委員会が行っており、1999年の政府間合意書方式の導入時から、従来行われた各自治体への補正係数制度を廃止し、現在の簡素な補正係数制度に変えました。
 日本も、消費税を全額、地方自治体の財源に組み込むなどの中央政府と地方自治体の財政調整機能を大胆に改革し、合わせて補正係数の廃止等、地方交付税額算定方法の簡素化を図るべきです。

2.国家競争政策合意書の導入

 国家競争政策合意書は、政府が事業を行う際、民間事業者と同等の立場で政府も入札に参加しなければならず、民間と行政が競争している状況が生まれ、効率的な行政と著しい行革の推進が図られました。
 日本も、行政が民間に業務委託する発想を捨て、民間と行政が対等の立場で競争できる環境を整備すべきです。


3.早急の公会計整備
 オーストラリアが1990年代後半に、連邦および地方の構造改革を強力に進めてこられた背景には、財政管理・透明化法(※調査中)に基づき会計制度の整備を優先して行い、政府の財政状態を正確に把握できるインフラ整備が存在したため、上記の2020年までの純債務ゼロを目標にするなど、世界でも数少ない健全財政国家に生まれ変わろうとしています。
 日本も、公会計を財務省まかせでなく、法律に基づく、内閣主導の公会計制度を早急に整備すべきです。
 
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