① 財政赤字からの脱却 財政赤字をコントロールするための予算プロセス改革を1997年から実施しました。先ず、将来3年間の歳出総額を決め、その中で27分野(医療・障害者保障、雇用、教育、地方交付税等)の歳出目標を決め、そして500項目の単年度議決予算を決める、フレーム予算制度を確立したことでした。
次に、分野毎に歳出カット目標を決め、最後に、収入増を図る、という3段階方式で財政赤字からの脱却が成功しました。しかし、財政課長も言っていましたが、財政規律化を可能にする財政制度の確立と、巨額の税金を投入し90年代初頭の金融危機を乗り越え、経済自体が良くなったことが財政黒字化の最大要因であるとのことでした。
② 財政情報の改革
5年前までは現在のような財政情報部(現在8名の職員)はなく、その後、工夫・改善を図り、現在では国民に関心のある行財政情報を可能な限り提供できる体制になりました。特に、上述の27項目毎にリンクした情報を提供し、国民がわかり易く、利用し易い情報提供体制を構築できたことでした。
これらの情報提供体制により、2~3年前からスクールWEBや学校の授業(小学校2年生から)を通して、税及び行財政制度の仕組みを教えながら、歳出増を抑えることへの国民運動論へと展開を可能にしました。
ちなみに、本年、労働組合からこの部長が2004年情報役員賞を得たとのことでした。
③ 将来の課題への挑戦
高齢社会はスウェーデンでも大きな課題であり、この問題を克服できる一つの方法として、財政課長は、1999年に行われた老齢年金の制度改正で経験した事例を挙げていました。これは賦課方式で財政運営される所得比例年金と積立方式で運営される積立年金を組み合わせることにより、従来の現役世代平均所得の80%保障から75%保障に引き下げを可能にしたことでした。
この制度改革の実質的な意味合いは、国民の所得水準・経済力に応じたスライド方式にしたため、経済力の範囲内で継続運営できる制度を15年かけて実現したことでした。
また、高齢者社会保障制度も経済力に応じた制度に切り替えれば、持続可能な制度が出来るのではないかとの意見開陳には、悪く解釈すれば行政はこれしか出来ないとの開き直りとも取れますが、良く解釈すれば、行政はマジックではなく、出来る範囲で最大限努力することが重要であるとの説明からは、スウェーデンの過去10年間の行財政構造改革の成功を自慢する姿勢は感じられませんでした。
また、地方分権を更に進め、地方自治体の自己責任で持続可能な制度にすることも、高齢社会を乗り越える解決策のひとつではないかとも言っていました。
4. スウェーデン社会保障政策からの学習事項
① 施設介護のあり方
自宅で介護を受けるような雰囲気のサービスハウスは、自宅での生活をそのまま介護施設内で保障しているため、日本の施設介護とは比べものにならないほど、介護サービスが充実しており、その分、高負担国家(2003年実質国民負担率:スウェーデン74.3%、日本45.1%)になっているものと理解しました。
現在の日本では、スウェーデン型の高福祉高負担国家にすることは不可能であると直感しました。なぜなら、スウェーデンは、過去180年間戦争を行なっていない国であり、そのための外交努力をスウェーデン国民が皆で支えながら、団結心を強くしてきた歴史的土壌があり、国内福祉政策を充実させ、そのための高負担に理解を示してきた国家であるからこそ、現在のスウェーデン国家モデルがあると解釈しました。
反対に、戦後の日本はイデオロギー論争を50年以上も続けたため、高齢社会をどう乗り越えるかとの本質的な国民的議論が乏しいと実感しました。このように考えると、現在の日本の行財政制度は、更なる財源確保、高負担型国家にしなければ、福祉政策は行き詰まりを見せることは明らかであり、現在の毎年20兆円もの財政赤字の解消が重要な課題となっている日本の現状では、要介護者を増やさない介護予防型政策の充実を最優先せざるを得ないのではないかと考えます。
② 行政の情報公開制度の充実と更なる地方分権化
2007年から人口減少が避けられない日本の超高齢社会を乗り越えるには、現在増大している国民の政治・行政への不満を少なくするための行財政構造改革を大胆に進めなければならないと考えます。その柱が、徹底した行政の情報公開であり、また、その情報がわかり易くするためには、更なる地方分権を進め、市町村住民に、行政運営の基本である受益と負担のバランスを、肌身で感じられるまで、行財政構造の簡素化と地方分権を進める以外に解決策を見出すのは難しいのではないかと考えます。
③ 経済力に応じた制度設計
90年代に行財政構造改革を実現し、健全な財政規律化を構築した豪州・ニュージーランドそしてスウェーデンのような国家は、政府は景気対策よりも健全な財政運営を優先させる政策を取ってきました。この政策が景気回復をもたらし、経済成長路線を進める要因になったことは、日本も認めざるを得ない段階にきているものと考えます。
そのためには、政府が掲げる国民負担率50%を維持することは、スウェーデンのような高福祉高負担国家を目指すよりも、現在の日本の国民負担率を前提にしながら、先ずは財政赤字の解消を優先させる制度設計を最初に確立させなければなりません。そのためには、財政赤字を縮小させるための財源確保に取り組みながら、前述②の行財政改革を行なうとともに、日本の経済力の範囲内に福祉サービスを抑える、持続可能な社会保障政策を展開しなければならないと考えます。